いつもの様に簡単に盗んで、いつもの様に終わるはずだったが、この日は違った。
お店に入り目当てのTシャツを洋服の中に忍ばせてトイレに行き、盗んできたTシャツを袋から出し着こむ。
盗んだTシャツを着て次々と仲間がトイレから出ていく。
私も盗んだTシャツを着てトイレから出ようとした時、仲間の一人が〇〇がまだ来ない。
そう言い残しトイレから出て行った。
〇〇が心配になり、少しトイレで待つ事にした。
〇〇は2つ下の下級生で、仲間の弟。
今回が初めての万引きデビュー。
その兄貴の方は既に出て行ってしまっている。
暫くすると〇〇がトイレに入ってきた。
どうした?と聞くと「店員さんに紙袋貰ってた」と何食わぬ顔で答えた。
何も買わないのに紙袋貰ったの?と聞き直した。
そうすると「うん」と一言。
その紙袋の中に盗んだTシャツが入っていた。
直ぐにやばいと感じた。
そうこうしている内に、男子トレイに入ってこようとしている人影が窓に写った。
慌てて個室に入る私達。
隣の個室では〇〇がTシャツを袋から抜き取るガシャガシャという音がした。
扉の向こうには人がいるのに、そんな音させやがってと〇〇に対して苛立っていた。
扉の向こう側で人が行ったり来たりしている。
やばい予感がした。
隣で着替え終わった〇〇が私に「着たよ!」と、外に居た人にも聞こえる様な大きな声で言ってきた。
そして扉の向こう側に居た人が男子トイレから出て行った。
この時点で確信した。
外に居た人は店員だと。
何も買わないのに紙袋をもらうバカはいない。
完全に怪しまれたのだろう。
直ぐにトイレを出て逃げないと。
〇〇に出たらダッシュで逃げるぞと伝えた。
しかし時すでに遅し。
トイレから出るとスポーツ用品店の店員2人が立っていた。
「お店から商品盗んだでしょう?」「一緒に来てくれない?」と言われ守衛所まで連れていかれた。
店員さんから盗んだ物と人数を聞かれたが、私と○○だけですと答えたが、○○は他にも居たと答えてしまった。
こいつ仲間を売りやがったと心の中で呟いた。
全てが終わったら〇〇をぶん殴ると決めた。
その後、交番に連れて行かれ逃げ果せた仲間も親と一緒に交番に到着した。
各々調書を取り、警察官に頭を下げ交番を出た。
B君は、お父さんが迎えにきていた。
銭湯で見た事のある人だった。
細身で背が高く、声が低く、顏が物凄く怖い。
体に彫り物をして近寄りがたい人だった。
その人がB君のお父さんだったとは驚きだった。
交番から出た瞬間、B君がお父さんから殴られ飛ばされた!
一同驚愕。
B君のお父さんは、私達の方にも近づいてきて鉄槌を下す。
物凄く痛かった。
その後、スポーツ用品店に戻り謝罪と盗んだTシャツを弁償して家に戻った。
翌日、全員校長先生に呼び出され、こっぴどく怒られた。
隣で担任の先生が泣いていた。
担任の先生が泣いているのを見て、もう盗みはやめようと思った。
しかし時間が経つと、仲間が集まると、以前の様に万引きをする様になった。
ある時、B君と〇〇の三人で赤羽まで遊びに行った。
なんの目的で赤羽まで行ったのか覚えていないが、所持金が無かったのは覚えている。
赤羽から自宅までの距離10㎞弱ある。
大人だと10㎞だと歩いて帰れる距離だと思うが、小学生だったからか徒歩で帰る事は不可能と思っていた。
そこで自転車を盗んで乗って帰ろうと、駅前の駐輪場に置いてある自転車を物色。
当然鍵は掛かっているが、ダイヤル式の鍵を掛けている自転車を見つけて盗む。
このダイヤル式ってやつは、30秒も掛からず簡単に解除出来てしまう。
私とB君はママチャリを盗んだが、〇〇はわがままを言い出した。
ママチャリじゃなく、ロードタイプのかっこいいやつがいいと言い出した。
なんでもいいじゃないかと説得したが聞き入れず、ロードタイプを探す。
私とB君は渋々彼に付き合った。
人通りの多い商店街にお目当てのロードタイプの自転車があった。
○○にはダイヤル式の解除が出来なかったので、B君か私が解除する事になっていた。
人通りが多いし見つかるから諦めろと言ったが、聞き入れずこれがいいと駄々をこねる。
B君が「ペンギン侍、やってきてやれよ」と言ってきたので諦めて解除しに行った。
解除出来てロードタイプの自転車に乗る事が出来てご満悦の○○。
埼玉と東京との間には荒川が流れていて、橋を渡らなければならなかった。
東京側の橋の袂に交番がある。
その交番の横を通ろとした時、中から警察官が慌てて出てきた。
「ちょっと君達!!」
まさか呼び止められるとは思ってもいなかった。
どうやらロードタイプの自転車を盗んでいる時に見られて通報されていた様だ。
はい、また御用。
また〇〇がロードタイプじゃなきゃ嫌だと言ったせいで捕まった。
今度は〇〇を殺そうと心に誓った。
私の親とB君の親は迎えに来なかった。
少しホッとした。
間違いなく今度はB君のお父さんから殺されると思ったからだ。
代表で〇〇の親が車で迎えに来た。
そしてまた校長先生に呼び出され、前回以上の説教を受けた。
担任の先生は、横で頭を抱えていた。
また先生を悲しませてしまったと反省した。
来年は中学生にもなるし、もう悪い事から足を洗おうと本当に思った。
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