いつもの様に、みんなで集まり今日は何して遊ぶとか喋っていた。
仲間の一人が、もみじ公園の前に古ぼけた誰も住んでいないマンションがあるんだけど、探検にでも行ってみないと?
やる事も無かったので、みんなで行ってみた。
言ってた通り廃墟だ。
恐る恐る中に入る。
1階の部屋を見て周ったが、、壁が崩れていたり、廃材が放り込んであったりして汚かった。
続いて2階へ上がると、比較的キレイな部屋がある。
少し掃除でもすれば住めるのではないかと誰しもが思った。
B君が「ここ俺たちの基地にしようぜ!」とワクワクするような言葉を投げ掛けてきた。
低学年の時にダンボールを集めて部屋を作り、その中で友達同士で基地と称し遊んだ記憶がある。
みんな声を揃えて「いいねー!」と全員笑顔で賛同した。
B君が「俺達の基地なんだから、住めるようにしようぜ」とまたワクワクさせるような言葉を放り込んできた。
誰かが「住めるようにって、どうするの?」と質問した。
B君が「床にジュータン敷いて、テーブルとか座布団とか置いてさ、本当の部屋の様にするんだよ」と返答した。
ジュータン?ってどこに捨ててあるの?と誰かが疑問を投げ掛けた。
B君は「捨ててある物じゃなくて、新品を盗みにいくんだよ」とサラッと返した。
みんなの中に「盗む」という言葉がフワフワと漂っていたに違いない。
B君が「近くのデパートの裏側の倉庫に置いてあると思うから、そこに忍び込んで盗みに行く」
みんなしてB君に反論し始めた。
「捕まったらどうするの?」「持ってこれるの?」「絶対無理だよ」と色々と反論したが、B君からは大丈夫だからと一言。
B君が「俺とペンギン侍で取りに行ってくるから、みんなはココで待ってて」と強引に私の腕を取り部屋を出た。
考える暇もなく、強引に連れ出され歩き出した。
歩きながらB君に、どうやってやるの?絶対無理だからやめようよ!と言ったものの聞き入れてくれない。
そうこうしている内にお店の裏側にある搬入口に到着した。
辺りをキョロキョロと見渡すB君。
「よし入るぞ」とのB君からの掛け声で一緒に中に忍び込む。
私の心臓は破裂しそうなぐらいドキドキしていた。
奥に進むと倉庫の中にジュータンが立てかけてあった。
私は早くジュータンを取って逃げたかったが、B君はジュータンの前で悩んでいる。
もうどうしたの?早くしないと店員さんが来ちゃうよ!と震えながらB君に言った。
B君から返答は「あの部屋に合う柄はどっちか悩んでいる」と冷静に答えた。
お店の人に見つかる危険性があるのに、ありえない返答に怒りが込み上げてきた。
究極に緊張して今にも吐きそうな状況なのに、冷静にジュータンの柄を選んでやがるB君にキレた。
もういい!帰る!とB君に小さな声で怒鳴った。
B君は慌てた様子で「分かった、こっちの柄のジュータンを盗もう」と指さした。
急いでジュータンを担ぎ、お店の搬入口から逃げた。
6畳用のジュータンは長くて重い。
しかし2人で担ぎ、なんとか基地まで辿り着いた。
部屋に到着して仲間達は、本当に盗んできたのかとう表情で、私達を出迎えた。
B君が「なっ!言った通り大丈夫だっただろう?」とドヤ顔でみんなに伝えた。
それからテーブルや座布団、コップといった日用品までも盗んできた。
部屋が2階なので、もしか警察に踏み込まれても逃げられる様に。縄ばしごまで常備していた。
基地での日常は、お腹が空いたら、喉が渇いたら、スーパーに買い物へ行くかの如く万引きをしに行く。
この様な状況が3ヶ月ぐらい続いただろうか。
いつもの様に基地へ向かうとパトカーが停まっていた。
目の前のもみじ公園には、先に到着していた仲間が数人いた。
どうやら通報されたようだと誰かが言ってた。
この日で、この基地の使用は出来なくなった。
基地が無くなってから、私達はやる事がなくなり毎日暇だった。
ある日、仲間の一人が大手スポーツメーカーのTシャツが欲しいと言ってきた。
じゃみんなで取りに行こうかと、作戦会議をして大きなデパートへ向かった。
いつもの様に店内に入り、いつもと同じ様に盗んで帰ってくるだけ。
誰にも見つからないし、誰も捕まらないと、この時は思っていた。
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